レアもの紹介 〜God Save The 貴婦人

現在ではモノクロフィルムとモノクロ印画紙のメーカーとして有名なイギリスのイルフォード社が、1949年に発売したレンズシャッターカメラ。

個性派ぞろいのイギリス製カメラの中でも異彩を放っており、全金属製のダイカストボディに施された艶めいたアイボリーのエナメル塗装から「白い貴婦人」と呼ばれることもあります。

内部は、巻き上げやシャッターチャージ等の主要動作を行うギヤ類が、むき出しのままで巻き上げダイヤル下部に収納されているシンプルかつユニークな構造。

固定装着されているレンズは、世界最古のレンズメーカーのひとつであるダルメイヤー製のアナスチグマット35mm f4.5。秀逸な描写に定評があります。

実は広角35mmレンズを固定装着したカメラというのは、このアドボケイトが世界初だと言われています。そしておそらくイギリス初の国産35mm判カメラでもあり、当時のイギリスのカメラ年鑑で「英国における記念碑的カメラ」という一文と共に、1ページを使って紹介されたという逸話が残っています。

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「アドボケイト/ADVOCATE」という言葉を辞書でひくと、「支持者」や「擁護者」、「提唱者」あるいは「主張者」などの意とあります。

この個体は、経年により、ボディはアイボリーというよりはクリーム色。塗装の劣化や剥がれもあります。レンズ周りの金属部分もくすんでしまって光沢が失われていますが、気品は決して失ってはおらず静かなる主張を感じます。

主張する貴婦人。

まるで、1940年代にアルゼンチン大統領のファーストレディとなり積極的に国政に介入、国民の多くを占めるブルーカラーの労働者階級から大きな支持をえた『エビータ』ことエバ・ペロンのようです。…これはさすがに言い過ぎでしょうか。

しかし、このカメラが、やはりブルーカラーの多い英国で作られ、しかも当時他のカメラと比べて手頃な価格で販売されたことを考えると、エビータのようにブルーカラーの支持を得たのではないかと想像せざるをえません。

このカメラが生まれた1949年から3年後の1952年、エビータは癌により33歳という若さでこの世を去りました。