例えば、中古カメラ店に何十年も勤めているベテラン店員さん達に、「その状態の如何に関わらず、今まで仕事中に目にすることが一番多かった中古カメラは何ですか?」と訊ねたとしたら。
おそらく、ほとんどの方が「キャノンのFTb」と答えるのではないでしょうか。
キャノンFTbはF-1と同じ1971年に発売された中級機で、F-1用に開発されたFDレンズ群を活用できるように開放測光方式が採用されています。
発売から3年後には生産100万台を超え、当時の主力モデルとなったキャノンを代表する中級メカニカル機といってよいかと思います。
…と、ここまでFTbについて触れましたが、今回ご紹介するのはFTbの取説ダンディではありません。
そのFTbのベースとなったばかりか、そのスタイリングや測光方式などがその後のキャノン一眼レフ機の基礎となったといっても過言ではない1966年発売の機種「FT QL」の取説ダンディをご紹介します。
日本人です。お兄さんではなく、おじさんです。明らかにおじさんです。
それにしても、なんだかどこかで見たことがあるような、誰かに似ているような、そんな風貌です。
「あれ?お父さん!?」なんて思って二度見した方もいるかもしれません。
古い雑誌や映画や広告などで見た、というより、学校の先生とか近所のおじさんとか、あるいは親戚のおじさんとか…。
そんな、誰かであって誰でもない類型的風貌のダンディが撮影しているのは…。
なぜかオウムでした。
このダンディがペットとして飼っているオウムかもしれません。
ダンディとオウムが、
「ピーちゃん、ピーちゃん。こんにちわー。こんにちはー。元気にしてますかー?」
パシャッ!
「コンニチ…ギャピッ…サムイネサムイネ…ギギッ…バハハ〜イ@☆■*…」
「ピーちゃん、こっち向いてー。ピーちゃーん。」
パシャッ!パシャッ!
「ギギッ…シュワッチバハハ〜イ…キュ〜カカカカッ…ヤッタルデ!ヤッタルデ!」
なんて具合に会話をしながら撮影しているところを想像するのは、ちょっと楽しいですね。
ちなみに、FT QLの”QL”は「Quick Loading/クイック・ローディング」の頭文字をとったもの。
元はキャノネットQLという機種に搭載されていた機能で、フィルム室内にQLカバーという装置があり、フィルム装填時にフィルムの先端をスプール軸の溝に差し込まなくてもフィルム装填が出来る、という当時としては画期的な機能のことなんです。
その後、この機能はFTbやFTb-Nなどでも採用されましたが、1970年代の半ばあたりに発売された機種からはなぜか採用されなくなってしまいました。
時代は60年代から70年代へと移り変わり、カメラが電子化への道をまっしぐらに向かっていった中、このQLカバーはまるでトマソンのごとく、フィルム室と裏蓋の間に中途半端に取り残されてしまったのであります。