銀幕の小さな部屋 9巻目「野獣死すべし」

9月21日は故・松田優作さんの71回目の誕生日ですね。180センチを超える長身に耳に残る重低音な声質などで多くの人を魅了し、その演技力も評価され伝説の俳優になります。
しかし、1989年11月6日に癌により40歳の若さで急逝してしまいます。

ドラマ「探偵物語」の様にお茶目でコミカルなキャラクターから、「ブラック・レイン」のハードでシリアスな悪役まで、演じた一人一人に魂がこもった演技をされているのが見るものを惹きつけて止みません。

そんな松田優作さんの代表作の一つ
「野獣死すべし」(1980年)をご紹介していこうと思います。

映画「野獣死すべし」より

大藪春彦のハードボイルド小説を原作とした作品で、監督は村川透。
主役の松田優作の脇を小林麻美、鹿賀丈史ががっちりと固めます。

【あらすじ】
大手通信会社に勤務しながらも海外での戦場カメラマンとして撮影していくうちに心に闇を抱えた伊達は、ある雨の夜に警官を刺殺、拳銃を奪いカジノ強盗を起こす。
次なる襲撃目標を銀行とし、相棒に偶然知り合った直情型のレストランのウエイター、真田を選び声をかける-。

原作者の大藪さんは屈強な男を描いたのですが、奥歯を4本抜いて体重を10Kg近く落とした松田さんがやってきてあまりにもイメージとかけ離れてしまって監督が激怒、大げんかになったそうです。(ちなみに、役作りで足も5センチ切ろうとしていたとか!)
しかし、劇中で殻にこもり死相を浮かべた様なキャラクターは言葉にできない危うさを孕んでいて説得力を持たせます。

映画「野獣死すべし」より

この映画といえばこのシーンという程有名なビジュアルです。目を見開きながらもどことなく虚で、銃をこめかみに充てがう主人公の伊達。冒頭から狂気に蝕まれているのを言葉の説明無しに表現しています。

映画「野獣死すべし」より

カッとなると何をするかわからない、喧嘩体質の真田役・鹿賀丈史さん。(お若い!)子供の様にはしゃぎながら酒を飲みタバコを吸うシーンの演技が圧巻で、思わず見とれてしまいました。

映画「野獣死すべし」より

伊達に密かに惹かれる令子役の小林麻美さん。お美しいですね。小さな幸せの中、戻れない悲劇に巻き込まれていきます。

映画「野獣死すべし」より

他にも岩城滉一さん、泉谷しげるさんなどが脇役で出ています。

映画「野獣死すべし」より

この作品の名シーン、リップ・ヴァンウィンクルの話を語る伊達。ここから彼の秘めた狂気が暴走し始めていきます。

映画「野獣死すべし」より

伊達の胸元を飾る漆黒のボディ。まごうことなき一眼レフですね!

映画「野獣死すべし」より

レンズに付いた“カニ爪”ペンタ部に刻まれた“F”。前職が通信社のカメラマンだったことから、ニコンFアイレベルの様ですね。「報道のニコン」として世界の報道カメラマンに愛用されてきました。ブラックモデルにモータードライブ「F -36」が装着されていますね。露出計無しでモータードライブで連写する、本当にプロのカメラマンの方の腕にただただ感服いたします。

映画「野獣死すべし」より

当時、手動で巻き上げが当たり前だった時代。秒間で4コマ取れる機能は本当に画期的でした。本来、Fは底蓋に連結部分は用意されておらず、連結穴の空いている底蓋に変えたり、連動する部品を組み込んだり、個体ずつ連動機能を調整しないといけなかった様です。モータードライブに対応している個体はプロフェッショナル仕様みたいですね。

この後、クライマックスでモードラ仕様のFが唸りをあげながらシャッターを切っていくシーンがあるんですが、ちょっと若干かなり過激な場面なので割愛させていただきます…。
ですが、今の自分が形成されるに至った経緯を独白するシーンの熱量や気迫は、まさに鬼気迫るものを感じます。

その他、当時の日本橋や神田、上野など景観や人々を現在と比較するのも面白いですね。

世界が認めた、ニコンのプロ機。自分の腕試しとしても、敢えて露出計の非搭載のFアイレベルでコンクリートジャングルに飛び出してみてはいかがでしょうか。
ニコンFアイレベル(シルバー)

出典:「野獣死すべし」(1980年)
監督:村川透
出演:松田優作、小林麻美、鹿賀丈史、室田日出男