銀幕の小さな部屋17巻目 「裏窓」

だんだん冬に向かっているのが肌で感じられる様になってきました。
肌寒い日や雨の日など、天気の悪い日は外に出て写真を撮るのを躊躇ってしまいますね。
もちろん雨の日にしか撮れない写真もあるのですが、傘を片手に…とか屋根のあるところで…など、何かしらの制限が入ってしまいがちです。
そんな時、思いつくのが部屋の窓からの撮影です。例えば電柱に止まる鳥や、道路にできた水溜りなどまた新しい視点を見つけることが出来ます。

今回の映画は、窓の外のふとした光景が疑惑に変わっていくサスペンススリラーの大傑作「裏窓」です。

1954年、サスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督が製作したアメリカ映画です。主人公の部屋から町並みに至るまで全てセットで組まれており、まだCGの無かった時代のヒッチコック監督の完璧に計算された映像世界を堪能できます。

【あらすじ】
優秀なカメラマンのジェフはアクシデントで片足を骨折してしまい、自宅での療養を余儀なくされていた。暇つぶしといえば、自室の窓から望遠鏡を使って、近所の生活を覗き見ること。
ひょんなことから、向かいのアパートの夫婦喧嘩を機に夫人がいなくなったことからジェフは事件を疑い始めるが…

映画「裏窓」より

ヒッチコック監督といえば「サイコ」や「鳥」を思い浮かべる方もいらっしゃるでしょうが、この「裏窓」も負けず劣らずの名作として名を馳せています。
主役ジェームズ・スチュワートの緊迫感に満ちた演技もさることながら、ガールフレンド役のグレース・ケリーもチャーミングかつ強かなキャラクターで非常に魅力的です。
またモブ的ポジションの街並みやアパートの住民まで、まるで本当に人生を紡いでいる様な生活感に溢れる挙動で自分も住民の様に錯覚してしまいます。
私はついジブリ作品の「魔女の宅急便」や「天空の城ラピュタ」の町を連想してしまいました。

さあ、カメラマンという主人公のジェフ。果たしてどんなカメラを使っているのかというと…

映画「裏窓」より

ドイツ・ドレスデンに存在したイハゲー社が1936年に販売したキネエキザクタ系統の様ですね。
正確なモデル名は判別しにくいのですが、映画の公開年や銘板直下にノブがあることから1950年〜53年にかけて製作された「ヴァレックス中期型」では無いかと思うのです。
それまでのウエストレベル固定式だったものからファインダー交換可能になり、アイレベルファインダーが装着可能になった世代みたいですね。
劇中の使い方を見るとしっかり正面に構えているのでアイレベルなのは間違い無い様です。

映画「裏窓」より

エキザクタは日本が誇る名機ニコンFよりも前に製作された一眼レフで、独特なデザイン・操作から熱狂的な愛好家の方もいらっしゃいます。
元々は127判(ベスト判)用として1933年に発売されたエキザクタを映画用フィルム、つまりシネフィルム仕様にしたモデルのためキネ(シネ)エキザクタというそうです。
レンズは…すみません、はっきりと判別出来ませんでした!

こちらはヴァレックスIIa。レンズはカールツァイスのテッサー50/2.8が付いています。

シャッターを切るとミラーが上がって戻ってこない仕様(クイック・ターン・ミラーでは無い)ではありますが、巻き上げレバーに横走り布幕フォーカルプレーンシャッターと35mm一眼レフカメラの礎を築いたカメラで、後世の一眼レフ機は殆ど影響を受けていると言われています。

上から覗くと三角形の愛くるしいデザイン。ホールドしやすいかは…?

現代では珍しい、左巻き上げ&左シャッターです。シャッターボタンはトプコンRE-SUPERみたいに前面に付いています。
ちなみにシャッター速は最高1/1000までありますね。

プリセット仕様のレンズの場合、レンズ自体に延長のシャッターボタン(兼絞り解除)が付いています。
巻き上げレバーが左側にあるので、当然フィルムは右側に詰めます。
圧板にはエンボス(加工?)が施され、フィルムの貼り付きが起きづらくなっています。1930年代にここまで考えられていたんですね。
凝りに凝った軍艦部。非常に美しい造形をしています。
ファインダー上部に誇らしげに「Ihagee(イハゲー)」のロゴがたまりません。

35mmカメラといえばレンジファインダー機。そんな時代に真っ向から勝負したイハゲー社。彼らが歴史に刻んだ爪痕をその手でしっかりと味わってみてはいかがでしょうか。

映画「裏窓」より

ヒロイン役のグレース・ケリー。本当にお美しいですね。

出典:「裏窓」 1954年
監督:アルフレッド・ヒッチコック
出演:ジェームズ・スチュワート、グレース・ケリー…etc