「エイリアン」「ブレードランナー」「グラディエーター」…
世代を超えて名作を送り出した一人の巨匠、リドリー・スコット。
2003年に騎士“サー”の称号を授与されたあとも次々と意欲作を生み出しています。
そんなサー・リドリー・スコットの「アメリカン・ギャングスター」からカメラの紹介です。
作品の公開は2007年。
60年代の麻薬ビジネスで大成を収めた麻薬王と彼を追い詰める刑事を描いたクライムサスペンスです。
【あらすじ】
ハーレムのヘロイン王バンピー・ジョンソンの運転手フランクは、彼の死後に家族総出で麻薬ビジネスを始め純度の高い麻薬を安価に流通させるシステムを構築したことで巨万の富を生み出す。
一方で汚職蔓延る警察組織で、手法はやや乱暴だが決して汚職に手を付けず自分の正義に忠実なリッチーは麻薬取締局での捜査に任命され、麻薬犯罪組織の撲滅に乗り出す…。
麻薬王フランクにデンゼル・ワシントン、正義漢リッチーにラッセル・クロウと共に世界的に認められた演技派をキャスティング。
脇を固めるのは、ジョシュ・ブローリン(ボーダーライン)やイドリス・エルバ(パシフィックリム)などこれまた名優揃いで、痛快アクションとは違った重厚なクライムサスペンスに仕上がっています。

中央がD.ワシントン。家族の絆を重んじる顔役フランクを演じます。

正義漢溢れる刑事、リッチー役のR.クロウ。使命感とは裏腹に私生活は中々波乱です。

汚職警官トルーポ役のJ.ブローリン。一癖ある役を演じたらピカイチです。
今でこそ第一線の主役級にも選ばれますが、この頃から演技が光っていますね。
それではさっそく劇中に登場するカメラを見ていきましょう。

ボクシングの試合会場での一コマ。リッチーの後ろの記者の手には本職らしくストロボ付きのニコンFが握られていますね。
ファインダーの形状が段が付いていないことからニコンFフォトミックFTNかと思われます。
レンズは…銀枠のレンズをご使用ですね。鏡胴の長さ的に50mm f1.4、もしくは5.8㎝ f1.4でしょうか。

元々のニコンF自体は1959年に登場していますが、この露出計が搭載されたFTNファインダーは1968年に販売されました。
レンズ交換の際の開放f値設定を簡単に行えるようになったファインダーです。
そして次に取り上げるカメラですが…

容疑者の特定に向かうリッチー。シルバーの一眼レフを両手に握っています。

全景が映るシーンはありませんでしたが、ペンタックスの一眼レフです!
しかもよく見ると銘板の刻印が“HEIL…”と読めるところから、当時アメリカ等への輸出先“HONEYWELL”社の名を冠してた「HONEYWELL HEILAND PENTAX」シリーズのようです。
前面に低速ダイヤルが見えないことや貼り革がマウント部まで伸びていないことからH1、H1aまたはH3ではないかと。
シャッター速の最高値や、完全自動絞り機構の有無などの違いがありますが、区別できる外観上の目立った違いは無いようですね。
日本でいうS2、S3あたりの機種でしょうか。
レンズはCARENAR 35mm f2.8(M42マウント)を装着しているようです。韓国のレンズブランドですね。

(あれ?いつのまにか長玉に……)
よーく見るとシャッターダイヤルの天面が平べったく見えるような気がします。
その特徴からだとこのモデルはペンタックスH3のような気がしますね。
残念なことに該当機種がないので、近い機種を掲載します。

60年代以前からカメラは輸出品の主力商品でした。まだ国産カメラの知名度が今ほど大きくなかったころ、輸出先の販売代理店の名前を入れて海外で販売されることが多かった時代。
ペンタックスのみならず、キヤノン(ベル&ハウエル)やトプコン(べセラー)など…。
そのため中古カメラ市場では海外名称のまま日本に“逆輸入”されて帰ってくる子がちらほらいます。


この頃のPENTAX一眼カメラは巻き戻しクランクを引き上げて裏蓋を開くのではなく、側面の爪を押し下げて開くタイプでした。

同世代の他メーカーでも見かけた手動セット式のフィルムカウンター。フィルム装填の際はお忘れなきよう。
露出計は搭載されていませんが、そのぶん電気を使わない機械式カメラなので修理によって復活しやすい機種です。
また、ファインダー内は露出計指針が無いことから非常にすっきりしていてピントや構図合わせに集中しやすいのも好ポイントです。
非常にストイックな機種なので令和の今、首から下げていたらカメラ通認定されるかもしれませんね。
ペンタックスのレンズは発色鮮やかながらシャープすぎず、適度な解像力で柔らかく表現してくれるレンズが多いので担当もお気に入りです。
【おまけ】

該当シーンに続いてこの映画にはプリントするシーンも出てきます。仕事柄、ジワーっと像が出てくるところは何度見てもテンションが上がります。
※ちなみに、フィルム時代から日本警察もペンタックスを採用していたようで、今でも刑事ドラマをちらっと見ると鑑識官がペンタックスのデジタル一眼で現場を撮影しているシーンを観たりします。
性能はお墨付きということですねっ!
映画の話に戻りまして…
本作品は実話ベースの為、とてもリアルに、悪く言うと非常に地味なストーリー展開で物語が進みます。
リドリー・スコット監督作品の中ではある意味硬派すぎる作風のため、少し監督が持つイメージと離れてしまうかもしれません。
マイケル・マン監督やアントワン・フークア監督などでしたらもう少しアクションシーンを広範囲にトッピングしていたかもしれませんね。
ですが、クライマックスのアジト突入の際の緊迫感はすさまじく、思わず手に汗握ってしまいます。
また、デンゼルといえば2001年に主演しアカデミー主演男優賞を受賞した「トレーニングデイ」が余りにも有名かもしれませんが、今作も寡黙な男たちの静かな対決を堪能したい方におすすめです。
出典:アメリカン・ギャングスター(2007年)
監督:リドリー・スコット
出演:デンゼル・ワシントン、ラッセル・クロウ、ジョシュ・ブローリン、イドリス・エルバ、RZA …etc

