ニコン最後のフルサイズ・レンジファインダーカメラ「Nikon S4」

ニコンといえば世界一になった「ニコンF」に代表される一眼レフのイメージが強いと思います。
ですが、ニコンFの登場前にはライカと同じくレンジファインダーカメラを製造していたということを知っている現代の若い方は少ないのではないでしょうか。

ニコン(当時は日本光学)は軍需産業の光学兵器を製造するために設立されました。
1930年代には写真用レンズを開発していますが、この時点では写真機(カメラ)自体は作られていません。
第二次大戦終戦後に民間の写真機製造に転換し、1948年にレンジファインダー機「ニコンⅠ型」1950年に「ニコンM型」1951年に「ニコンS型」を発売します。
ですが、このカメラ達はフィルムのフォーマットサイズが世界基準の「24×36」(フルサイズ)では無かったため、規格を合わせるように注文が来てしまいます。

そしてついに1954年「24×36」規格対応の「ニコンS2」が誕生しました。このカメラには、ライカM3にも無かった巻き戻しクランクや等倍ファインダーなどが搭載された先進的なカメラでした。

その後、1957年にプロの報道カメラマンの相棒となる大傑作機「ニコンSP」を世に送り出します。
しかし現代にも続く永遠のライバルメーカー「キヤノン」が低価格の普及機を発売、ニコンも機能を簡略化した機種を投入することに。ファインダーの種類やパララックス補正などをオミットした「ニコンS3」を販売。ニコンSPよりも安価に出来ましたが、それよりもさらに求めやすい価格帯で展開するキヤノンに苦戦します。

そうしてさらに機能を簡略化した「ニコンS4」が1959年3月に登場します。ファインダーは「5cm&10.5cm」のみ、セルフタイマー無し、フィルムカウンターの手動化など簡素化し普及型というポジションでしたが、同年キヤノンも「キヤノンP」を送り出します。
35ミリ、50ミリ、135ミリのフレームが入り、パララックス自動補正機能まで搭載された上にニコン機よりも安価なキヤノンP型は大ヒットし、約10万台が販売されたそうです。
結果的にニコンS4は力及ばず5895台の製造を持って製造中止になったようです。逆にその生産台数の少なさから、海外では相場が少し高いのだとか。

そして同年6月、伝説の名機となる「ニコンF」の登場により世界は一眼レフの時代へと突入していきます…。

それではニコンS4の外観から見ていきます。

ニコンS型はツァイス・イコンの産み出したカメラ、「コンタックス」に非常に近いデザインです。
しかし、フランジバックはライカと同じ長さなことや横走り布幕シャッターを採用したことで個性を出しています。

ニコンS3とほぼ同等の外観は非常に精悍な顔付きで、端正なキヤノン機に比べ無骨なイメージです。
セルフタイマーが省略されているためか前面がスッキリして見えます。

いわゆる“卵型”といわれるようなライカの丸みを帯びた形状とは違い、国産のカメラは角型のカメラが多い印象です。

コンタックスと同じくフォーカスロックを解除すれば他のカメラと同じくレンズを回してピント調整が出来ますが、このカメラには右手側にフォーカシングギアが搭載されており、右手の指でピント調節が可能です。

シャッター速はB.~1/1000。いわゆるコストダウン機では高速シャッターが省略されていたりしますが、そこはニコン機。抜かりはありません。

フィルムカウンターはニコンS2と同じく手動セット式。少しくぼんでいるため不意にズレてしまうことはあまりないですが、フィルム装填時にセットし忘れてしまわないように注意が必要です。

フィルム室は蝶番開閉ではなく、分離式。こちらもおなじみですね。慣れてしまえば特に苦もないかと。

ここから作例です。
レンズはH ニッコール 50/2、フィルムはフジフイルムC200、コダックGOLD200を使用しました。

Nikon S4, nikkor 50/2, FUJIFILM C200

とてもヌケが良くシャープな画作りです。ボケもこの写真ではうるさく感じないかと思いますね。

Nikon S4, nikkor 50/2, FUJIFILM C200

タイルが見たままの質感で再現できたと思います。

Nikon S4, nikkor 50/2, KODAK GOLD200

ニッコールの特徴でもある、力強いシャープな描写になったかと思います。花のピンク色だけでなく、深みのある緑色も目を惹きます。

Nikon S4, nikkor 50/2, KODAK GOLD200

暗所の撮影を1枚。夜の黒が締まって見えます。和光の文字盤から有楽町マリオンのネオンまでハッキリと確認できてしまう光学性能はとても半世紀前のレンズとは思えません。

【まとめ】
フィルムカウンターの手動セットやセルフタイマーの省略などコストカットに苦心の跡が見られたカメラですが、いざ手にしてみると驚くほどしっくりくる一台でした。

等倍ファインダーは両眼を開けていても違和感なく、右手側にあるフォーカシングギアは縦持ちでも右手でピントを合わせることができるため、左手はホールドに専念できるのが良かったと感じました。

レンズも標準と言われる「ニッコール 5cm f2」後期モデルは軽金属採用のため、非常に軽量で取り回しが良く扱いやすいレンズでした。シャープさやボケの自然さ、なにより写真の雰囲気がとても好みで、ニッコールレンズの中でも担当のお気に入りの一本です。

とはいえアルバダ式の距離計はライカに比べると若干見づらく、巻き上げのフィーリングもライカM3よりもラフな印象でした。
しかしそこはニコン。ピント精度も写真の仕上がりも素晴らしく、剛性感の高い角形ボディは持つ喜びを実感できました。
ライカ機が騎士だとしたらニコン機はまさに。その無骨ながらも誇りに満ちた一品をお試しになってみてはいかがでしょう?

1959年に生まれた同い年。全く毛色の違う兄弟機を揃えるのも一興かもしれません。