銀幕の小さな部屋 12巻目「恋愛寫眞」

そろそろ桜が咲き始める季節になってまいりました。
なかなか自由に動き回るのが難しい情勢ですが、必ずまた心を動かす景色を存分に写真に収める事ができる日が来ると信じております。
今回ご紹介するのは2003年製作の日本映画「恋愛寫眞」です。

映画「恋愛寫眞」より。

【あらすじ】
かつての恋人の名前「里中静流」を名乗る写真家、瀬川誠人。在学中に出会った二人はカメラを通じて距離を縮めるのだが、あるタイミングで気持ちがすれ違い二人は別れてしまう。数年後、誠人のもとに静流の訃報が届く…

主演は松田優作さんのご子息・松田龍平と当時一世を風靡した広末涼子。サイドに小池栄子や高橋一生など、初々しい演技が新鮮です。
監督は「TRICK」シリーズや「金田一少年の事件簿」などサスペンスドラマの大ベテラン、堤幸彦が務めます。

映画「恋愛寫眞」より。誠人役の松田龍平さん。お父さんの松田優作さんの面影がありますね。
映画「恋愛寫眞」より。静流役の広末涼子さん。「とってもとっても…♪」と聞くと今でも歌詞が頭に浮かびます。

今回は主人公のカメラ、キヤノンの「NewF–1」を取り上げます。

劇中のようにニューF−1にニューFD 50/1.4 S.S.Cを装着してみました。

キヤノンのカメラの歴史は古く、1934年には試作カメラを製作、1936年には市販モデルの‘ハンザキヤノン’が販売されます。キャリアとしてはライバルのニコンより長いですね。1954年にライツの最高峰「ライカM3」が登場、1959年に世界を震撼させた「ニコンF」が登場しても、レンジファインダー機をメインに展開していきました。

ただ一眼レフに関心がなかったわけではなく、1959年にはニコンFの一カ月前にRマウントレンズ対応の「キヤノンフレックス」を発表。1964年にはFLマウント対応の「キヤノンFX」を発売。しかし、システムカメラとしてプロに絶対的な信頼を置かれるニコンの牙城を崩すことが出来ず、試行錯誤が続きます。

そして1971年、「馬車馬のように酷使しても壊れないカメラ」をスローガンにプロフェッショナルに向けた一眼レフカメラ「Fー1」を作り上げます。
機械式シャッターを採用し、速度はB〜1/2000秒。
シャッター耐久10万回を超える耐久性に豊富なレンズ・アクセサリー群、F−1は世界のプロから絶賛されました。
1976年にはマイナーチェンジ機「F−1N」が登場します。

そして10年後の1981年、「New F−1」が誕生します。
AE需要の声に応えるのと、確実にシャッターを切る事ができるという2つの要望を満たすために高速側は機械・低速側は電子のハイブリッドシャッター機構が搭載されました。
このことによりスムーズに確実な撮影ができる様に洗練されています。

旧F−1で前面にあったレバーが廃止され、グリップ付きの電池カバーに変更されてます。
映画「恋愛寫眞」より。アイレベルファインダーにレンズはニューFD 200/2.8でしょうか。
映画「恋愛寫眞」より。ファインダー内。露出計は追針式で見やすいです。絞り優先にすると、露出計が横向きになります。

NewF-1はファインダー交換式、ファインダーとモータードライブの組み合わせで絞り優先・シャッタースピード優先に対応する事ができます。

映画「恋愛寫眞」より。アイレベルにモータードライブFNでしょうか、シャッター優先AEの様ですね。
映画「恋愛寫眞」より。静流も写真の魅力にハマっていきます。

鑑賞前は岩井俊二さんを彷彿とさせる瑞々しい描写かな〜と思っていたのですが、後半一気に堤幸彦カラーが色濃くなっていき予想外の展開に進んでいき、かなり楽しめました。
ただの恋愛映画ではなく、サスペンスの味付けがしっかりと感じられました。締め方が都合よすぎかな〜と思っちゃいましたが、雰囲気は全体的に良かったです。(個人的には交換したレンズを無造作にポケットにしまうシーンが好きですね!)
以前ご紹介した「野獣死すべし」では松田優作さんは劇中ニコンFを使用していました。今回松田龍平さんはNewキヤノンF-1と、好敵手同士のモデルを使っているのも感慨深いですね。

手にしっくりくるサイズと重量で、シャッター音も耳に心地よいです。

マットなボディで派手な自己主張はせず、確かな仕事をこなしてしっかりと存在感を表すNewF-1。
かつてプロの相棒を務め果たした質実剛健なカメラをパートナーに選んでみてはいかがでしょうか。

出典:恋愛寫眞(2003年)
監督:堤幸彦
出演:松田龍平、広末涼子、小池栄子、高橋一生…他