銀幕の小さな部屋15巻目 「地雷を踏んだらサヨウナラ」

まだ人々が自由に情報を発信出来なかった時代。特に戦争が勃発したとき、情報を世界に伝えることが出来るのは「カメラマン(フォトグラファー)」でした。
今回はカンボジアに散った若き戦場カメラマン、一ノ瀬泰三さんにスポットを当てた映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」のご紹介です。

監督は五十嵐匠。主人公の一ノ瀬泰三役は浅野忠信が努めます。
「地雷を踏んだらサヨウナラ」とは一ノ瀬氏が友人宛に送った手紙に書かれていた一文だそうです。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。一ノ瀬役の浅野忠信さん。お若いですね。

【あらすじ】
佐賀県に産まれた青年・一ノ瀬泰三。大学卒業後にフリーランスのカメラマンとなり、ベトナム戦争を取材。のちにカンボジア内戦の取材中に武装組織がシンボルとしていたアンコールワットに魅せられ、ただひたすらに目指す…

一ノ瀬氏はベトナム戦争を経て内戦の火種燻るカンボジアに向かいます。アンコールワットを目指し潜入したまま消息不明になり、後年に現地で遺体が発見されたそうです。
その後の調査で武装組織に処刑されたことが判明しました。享年26歳でした。
戦場で命を落とされたカメラマンというと、ロバートキャパ氏や沢田教一氏が有名ですが、彼もまた最期まで戦争という惨状を世界に発信し続けました。

そんな彼、一ノ瀬泰三氏が愛用していたカメラは…

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。

ニコンF2フォトミックのようです。1971年に登場したフラッグシップ機で、最高速は1/2000。堅牢なボディにシャープな写りのニッコールレンズ。機械式一眼レフカメラの完成形として、正に当時の報道カメラマンの“目”となって活躍していました。

ニコンF2 フォトミック
映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。
映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。

露出計に頼った結果、露出不足を指摘されてしまう描写があります。

作中、一ノ瀬は常にサブカメラと2台体制で行動します。
そのサブカメラは1967年に登場した「ニコマートFTN」です。

ニコマートFTN auto nikkor 50/1.4

旗艦機のニコンF2は横走りチタン幕シャッターなのに対し、ニコマートは縦走り金属幕シャッター。
また、ニコンF2が最高速1/2000なのに対しニコマートは最高速1/1000と位置づけは普及機ですが、FやF2に決して劣らない堅牢性、フィルム交換が便利な蝶番式裏蓋や露出計内蔵と非常に使いやすく、プロの写真家の方もサブカメラとして使用していたようです。
シャッタースピードダイヤルはマウント根本にあり、他メーカーだとオリンパスのOM1などが近いですね。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。

ニコマートに単焦点(おそらく50㎜?)でファインダーを覗く一ノ瀬。(フード内に小指入ってる?)

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。

ニコンF2とニコマートFTNの2ショット。
一ノ瀬氏はニコンカメラに全幅の信頼を置いていたのでしょうね。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より

また、一ノ瀬氏の実家に置かれていた黒いカメラ。
これは「ニコンF」です。以前ベトナム戦争の取材時に使用していたカメラのようで、銃弾を受け大きく歪んでしまった物だそうです。

この話は実話で、被弾した形がそっくりなことからモックではなく実物が使用されたのでは無いかと思います。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より。
ニコンF アイレベル auto nikkor 50/1.4

ニコンFといえば、特徴はやはりシャッターボタンが後方に配置されていること。レンジファインダー機のニコンS型に由来しています。
フィルム装填に若干の慣れが必要かもしれませんが、独特の直線デザインとまろやかなレリーズ音は今もカメラファンを惹きつけて止みません。
今でも十分に活躍してくれる非常に完成度の高い一眼レフカメラです。

ちなみに劇中で仲良くなるカメラマン、ティム。
彼はライカを使用しています。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より

画質が鮮明でなく詳細が難しいですが、距離計のデザインからライカM3みたいですね。レンズはズミルックス50/1.4の第1世代では無いかと推測します。

ライカM3 summilux 50/1.4

1954年に生まれたもはや説明不要のレンジファインダーカメラの傑作機。
思わず見惚れるファインダーとその囁くような静かなシャッター音はたちまち世界を魅了し、古今東西問わずあらゆるプロフェッショナルたちの手に包まれてきました。ベトナム戦争にはニコンFと共に戦場カメラマンの相棒として決定的瞬間を切り取っています。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より

映画内の一ノ瀬は信念を曲げず真っ直ぐな性格でしばしば周囲を困惑させてしまいますが、仲間や子供たちに慕われ決して一匹狼的な人物ではなかったようです。
そんな彼が命を賭してまでその眼に焼き付けたかったアンコールワット。
現代では世界遺産として世界中の人々が訪問しています。

日常が安定を取り戻したとき、一ノ瀬氏が目指した光景はなんだったのか、是非現地で思いを馳せてみたいと思いました。

映画「地雷を踏んだらサヨウナラ」より

出典:「地雷を踏んだらサヨウナラ」(1999年)
監督:五十嵐匠
出演:浅野忠信…他

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