銀幕の小さな部屋 6巻目「欲望」

皆様はフィルムをご自身で現像した経験はありますか?私は憧れつつ、未だ経験したことが無いのです…。暗室の赤いライトに照らされて、画が印画紙に浮かび上がる。デジタルでは味わう事の出来ない醍醐味ですね。

今回ご紹介するのは、フラーっと撮影した写真を引き伸ばしたら殺人事件が写ってたんだぜ映画「欲望」です。

【あらすじ】
1960年代イギリス。売れっ子の人気カメラマン、トーマスは散歩がてらのスナップ撮影に興じる。ある日、何気なく撮影した男女の写真を暗室で引き伸ばしてみると、草むらで横たわる影が写っていた…。

興味本位で撮影した写真に殺人事件が写っていたというショッキングな出来事を、現実と虚構を混ぜながら作られた何とも不思議な雰囲気の作品になっております。ちなみに、原題は「BLOW UP」。翻訳すると「引き伸ばし」の意味です。原題の方がまさに!と思うのですが、なぜ「欲望」って邦題なんでしょうか…

監督は「情事」のミケランジェロ・アントニオーニ。
主人公の青年カメラマンは「グラディエーター」にも出てたデヴィッド・ヘミングスが好演。またモデル役でジェーン・バーキン(!)がチョイ役で出演してます。また、ライブハウスで伝説的バンド、ヤードバーズ(ジェフ・ベック、ジミー・ペイジ時代)が演奏しています。何と豪華なキャスティングでしょうか。

映画「欲望」より引用

そんな、ナウいヤングからキャーキャー言われるトーマスのカメラは…

映画「欲望」より引用

まずはプロフェッショナルらしくハッセルブラッドですね。映画が製作された年代と正面のロゴデザイン的に「500C」の様です。三脚に固定させてマグニファインドフードを装着してますね。スウェーデンのハッセルブラッド社が1957年に世に出した、中判一眼レフカメラの大傑作です。スウェーデン鋼を使用した頑丈なボディ、供給されたカールツァイスのレンズによる描写は今も人々を魅了し続けてます。6×6の正方形に情報量のたっぷり詰まったプリントは一度体験すると病みつきになってしまいます。

映画「欲望」より引用
映画「欲望」より引用

このカップ型の白鏡胴、ディスタゴン50mm F4辺りでしょうか。親指と人差し指の付け根に挟んでぐるりとハンドルを回す仕草が格好いいですね。

映画「欲望」より引用

すぐさまフィルムマガジンを交換するアシスタント君。手馴れていますね。

続いて、トーマスが手にしたのは…

映画「欲望」より引用

日本の至宝「Nikon F」です!しかもアイレベルですね。1959年3月販売のレンジファインダーカメラNikonS4のわずか3ヶ月後、1959年6月に発売された一眼レフ機で、35ミリカメラ界に衝撃を与えた大革命児です。報道カメラマンにも信頼される丈夫な構造に数多の名玉を生み出したニッコールレンズの数々。それまで35ミリカメラはレンジファインダーカメラが主流でしたが、Nikon Fを機に一眼レフカメラが席巻していくことになります。(Sシリーズもとても良いカメラです!)

映画「欲望」より引用
映画「欲望」より引用

モデルに一心不乱にシャッターを切るトーマス。初代Fはシャッターボタンが後方にあるので、右手のポジションが独特になっています。

映画「欲望」より引用

屋外で茂みに隠れシャッターを切るトーマス。(怪しすぎます!)

映画「欲望」より引用

自分で撮影した写真を大きく引き伸ばして壁に貼る。劇中のシチュエーションは少し異なりますが、満足感や達成感は陶芸や絵画などの世界にも決して引けを取りませんね。

出典:「欲望」1967年
監督:ミケランジェロ・アントニオーニ
出演:デヴィッド・ヘミングス…etc

今回の作品に登場したカメラ(関連カメラ)
1988年発売のハッセルブラッド503CX(500系の後継機)、
劇中でも活躍したNikon Fアイレベル
を当店でも販売しております。また、サイトに載せきれなかったモデルもございます。今なお現役で使用できる当時のプロ写真家の頼れる相棒に触れてみてはいかがでしょうか。
※売り切れの際はご容赦くださいませ。